
東京スカイツリーが開業した。
風景の中に
その姿を見つけるたび
よく、こんな高いものを
建てられるものだ……とおもう。
私にとって
なじみの深い「塔」といえば
やはり
薬師寺さんの塔、であるが
そういう寺院の塔の構造が
現代のスカイツリーの構造に
活かされていると聞く。
いにしえから変わらず
人というものは
その時代、時代に生きる
人々の技術の粋を集め
決して手の届かない
大きな空に、
あこがれ、そして近づこうとしてきたのだろう。
開業の日の新聞に
「塔博士」と呼ばれ、
数々の電波塔の設計に携わった
建築家・内藤多仲氏に師事し、
東京タワーの設計に関わった
早稲田大学名誉教授、田中氏の記事があった。
「謙虚な姿勢で臨め」
「無理はするな」
これが、「塔博士」内藤氏の口癖だったという。
構造力学の基本に素直に従えば
おのずと安全性が高く、経済的な塔ができる、
というのが、
塔のことを知り尽くした内藤氏の遺訓なのだそうだ。
「すごいタワーができた」。
素直にそう思う一方、田中さんは、
建物の高さが技術力や経済力を示す時代が
これで一段落したとも感じている。
「自然に挑戦するかのごとく高さを追い求めれば
いずれ無理が来る。」
スカイツリーの建設中に起きた昨年の東日本大震災を見て、
内藤博士の哲学を改めて思い起こした。
(平成24年5月22日 読売新聞朝刊より)
スカイツリーは
建築中の震災にも
十分に耐えて完成したが
強風により
エレベーターを停止するなど
予想もしなかったことも起こっているようだ。
技術は進歩し
スカイツリーのような建築物も造れる日本だが
昨年の東日本大震災では
人の造ってきた
まちや、建物や、道や、港や
そういったものが
自然の力の前には
あまりにももろく、無力であった。
人の技術と力の象徴が
スカイツリーであるとしても
それが
人の造ったものである限り
絶対、であったり、
万能であったりすることはない、ということを
忘れてはならないのだ。
スカイツリーは
練馬区役所の庁舎からも、見える。
23区内なら
おそらく、どこか必ず見える場所が
あるだろうとおもう。
それは
スカイツリーの高さのなせる業であり
東京はまたひとつ、
すばらしい「名所」を手に入れた、とも、おもう。
しかし、だからこそ
スカイツリーを見るときには
「塔博士」内藤氏の言葉をおもいたい。
「謙虚な姿勢で臨め」
「無理はするな」
スカイツリーを訪れて
買い物や見物を楽しむもよし、
遠景にスカイツリーを見て
感動するもよし。
だが
スカイツリーには
もうひとつ、
少し違った見方、がある。
どこからでも見えるスカイツリーだからこそ
自然の力の大きさをおもい
人間の小ささをおもいながら
少しだけ、戒められる。
そんな見方も、たまにはどうだろう。
スカイツリーが
いつまでも
東京の空にその雄姿を見せ続けること。
薬師寺さんの塔のように
時代を超えて
いつまでも人の心に残ること。
それこそが
これからの日本が
安寧であることの証、になるのかも、しれない。
スカイツリーの見方
Tweet